こぎん刺しは、自由でいい。そう思わせてくれるビビッドな色のこぎんは、可愛いらしいイメージだけでなく、こぎんの幅の広さを教えてくれているようだ。スワロウテイルという作家名で活動する内本明美さんの作品は、モノトーン柄や国旗をモチーフとした模様が多く、女性はもちろん男性のファンも多い。

「今まで興味がなかった人達にも見てほしくて、こういう柄を刺してます。あとは、自分好みの物を作ってるだけ」と話す内本さんは、こぎんを始めて5年ほどになる。きっかけは、リカちゃん人形だった。

 もともと、母や祖母が裁縫をしていたことから、針と糸が身近にあり遊び道具だったそう。物心がつく頃には簡単な物は自分で作り、小学校高学年になると、定規入れや巾着など、ある程度の物は作れるようになったという。誰かと同じではなく、自分だけの物が作れることに魅力を感じ、自然と裁縫の道へ進んでいく。それからは、自分で作ったベビー用品を販売する傍ら、趣味であるリカちゃん人形の洋服も制作するなど裁縫を楽しむ日々だったが、こぎん刺しに関しては古い伝統というイメージが強く、興味を持つ対象ではなかった。

 


 

 そんな時、弘前市でこぎんフェスが開催されるとの情報を聞き、以前こぎん作家さんからいただいた、リカちゃんの洋服を展示させてもらおうと考えた。このことが転機となる。

「自分の人形よりちょっとサイズが大きかったので、急遽近所で買ったこぎん刺しの栞を組み合わせた服をもう1着作って、こぎんフェスに参加させました」

 すると「このセンスはすごい!自分の好きにこぎん刺してごらんよ」と、主催者が作品を高く評価し、内本さんにこぎん刺しを勧めてきたという。伝統工芸品という少し固いイメージがあったが、「自由に刺してもいい」という言葉に内本さんの気持ちが動いた。その時既に頭の中には、英国国旗であるユニオンジャックの構想が浮かび、新しい自己表現の一つとして、こぎん刺しを始めるに至ったのだ。

 知り合いから基本を教わり、その後は自分でどんどん刺していった。そのデザインは今までにはない、かっこいいと思えるこぎん模様。しかし、その一つ一つは伝統的なこぎん模様を組み合わせた物ばかりなのだ。

「模様が斬新な分、図案は崩したくない。こぎんじゃないと地元でやってる意味がない」。津軽のこぎん刺しとして色々な人に知ってもらいたいと、基本は変えないまま、新しい物に挑戦している。今は、青森や黒石の子ども達のこぎん講座などにも呼ばれ、次世代へ伝えようと動いている。

「子ども達がすごく興味を持つ。それで好きになって毎日刺すようになった子もいたくらい。簡単な物から知ってもらって、自分の好きなように作れれば、将来的にももっとこぎん好きが増えると思う」

 内本さんの目標は、これからも斬新で新しいことに挑戦していくこと。しかし、刺していくうちに伝統的な模様や、糸、藍で染めた麻の良さも分かってきたそうだ。こぎん刺しにかける真っ直ぐな想いが、これからも新しい物を生み出してくれるに違いない。

(記事内の情報は2016年取材当時のものです)