36年続く老舗喫茶

 

「五所川原立佞武多祭り」の最終日、3体の立佞武多が集まる「揃い踏み」が行われる大町旧ロータリー交差点。この五所川原の象徴ともいえる大きな交差点の一角にあるのが「珈琲詩人」だ。

 壁がレンガ造りの店内は香ばしい豆の香りに包まれ、2階にいても香りがする。その広い空間からカウンターが近い窓際の席を選んで腰を落とす。

「店に入った時点でその人が座る席は決まってるんです。その時に選んだ席がその人にとって一番居心地がいい場所」と明るく話してくれるのは奥さんの神奴恵子さん。眩しすぎない具合に差し込む陽光、影になる部分には飴色の照明、ゆったりとした音楽や雰囲気のいいコレクション。この空間ならどの席を選んでも長居してしまいそうだ。

 創業は1979(昭和54)年。初めは川端町にあった中三百貨店の裏にあり、この地に移転したのは1994年のこと。マスターの神豊さんは22歳の若さで自家焙煎の店を構えたのだ。当時はインベーダーゲーム全盛期。どこの喫茶店でもゲーム機を置いていたが「潰れるなら早く潰れて次のステップに移りたい」と苦しいながらもあえて導入しなかった。なかには入口を開けてゲームが無いと見るやいなや、帰ってしまうお客さんも。それでもゲームをやらないお客さんや本物を味わいたいお客さんに支持され続いてきた。

 

 

いつも新鮮な豆を

 

 仕入れた生豆を焙煎するのはマスターの仕事だ。珈琲詩人で取り扱っている豆はブルーマウンテン、モカ、マンデリン、コロンビア、ブラジルの5種類。本来の味を知ってもらいたいから数ある中から種類を絞り、新鮮な豆を常に提供できる状態にしている。特に鮮度が味を左右するブルーマウンテンは最上級なものを使用。

「今までブルーマウンテンを飲んできたお客さんでも、ここで飲んだ時に『これがブルーマウンテンの味か』と気づいて驚いてますよ」と奴恵子さん。香りが強いというのも鮮度を現す1つの目安。挽いた豆を持って帰る時、車の中はコーヒーのいい香りに包まれるそうで、それは豆が新鮮な証だ。オリジナルの「詩人ブレンド」は、コーヒーが苦手な人でも飲みやすいように配合に気をつけている。どちらかというと深煎りで、舌に残る後味がとても奥深い。

 また、「ハンバーグセット」はオープンから変わらない人気メニュー。コクがあって少し甘い自家製ソースも注ぎ足して作り続けてきた。自然の甘みを活かすため手間は惜しまず、口の中で広がる肉汁がうまい。たっぷりの野菜も、自家製ドレッシングのおかげで、女性でもあっと言う間に食べてしまう。

 

昔からそのままのお店

 

「若い人ってセルフに慣れてるから先にお金を払おうとするの。座って注文するのがリッチな気分になるみたい」。

 世間には300円のコーヒーもあれば、少し高いコーヒーもある。でも後者のコーヒーは席に座ると水とメニューが出てきて、安心できる空間があり、飲み終わるとそのまま帰ることができる。珈琲詩人にきて若い世代にも〝こういうコーヒーのスタイル〟を知ってほしいと奴恵子さんは言う。

 場所は変わったものの、変わらずにまっすぐ続いてきた珈琲詩人。コーヒーや料理の味はほとんど変えないで創業時からの味を守ってきた。清潔感ある店内もマスターが毎朝5時に来て欠かさず掃除やワックスがけをしている。従業員にも暇な時間の掃除を徹底。その甲斐あって昔からのお客さんも多く、当時の子供が大人になってから来てくれることもある。長くお店をやってるから出来た繋がりに、花が咲くのがおもしろいそうだ。地域で長く愛されてきたお店だからこその悦びだろう。

(記事内の情報は2014年取材当時のものです)

 

珈琲詩人

住所/五所川原市大町4-18

電話/0173-33-1584