鶴田から八戸の風土に惚れて

 

「コーヒーはお金を出してまで飲みませんでした。だけど店をやるからには嫌でも飲まなきゃならないからね」。そう話すのは八戸市内に4店舗を構える「香彩珈琲 みな実」の社長、須藤清文さん(66)。店を開いてからは今年で41年目。特に三日町中央店は三社大祭の山車も通る賑わいある場所にあり、コーヒー通でなくとも「みな実」と聞けばピンとくる。長く店を続けてきた須藤さんにとって、今では水よりも多く飲むというコーヒーは欠かせない存在。毎朝、仕事前にスタッフ皆で飲むコーヒーに「今日もみんな元気だな」という美味しさを感じるという。

 鶴田町出身の須藤さんは高校生の頃、冬休みになる度に八戸に住む叔父の仕事を手伝いに来ていた。海の無い土地に生まれたから、全てが未知。湊町の活気や市場に並ぶ魚の数々、言葉はきついけど温かさがある八戸の人。なぜだか八戸の風土は自分に合う。高校卒業後は「八戸で商売したいな」と思い、八戸で1年働いた後に出稼ぎへ。固い決心を抱きながら24歳まで開業資金のため遮二無二働き、1973(昭和48)年に番町でお店を始めた。「ラーメンは修行しなきゃならないし、選択肢がこれしか無かったんですよ。当時は喫茶店が多かったから何とかなるかなと思って始めました」


須藤さんは自身を自由人で素人の経営者だと話す。修行をしたわけでもないし教えてくれる人もいない。何もかも自分が感じるままにやってきたから、いつも何も知らない所からスタート。でも既成概念がない自己流とチャレンジ精神が幸いし、今の「みな実のコーヒー」がある。

 

 

創造で焙煎機を手造り

 

 みな実で自家焙煎の豆を提供し始めたのは1980年代後半頃。当時は自家焙煎がブームで須藤さんも焙煎機を導入したいと思ったものの、競合になると考えたメーカーは個人店には売ってくれなかった。自家焙煎の喫茶店も自分流のやり方があるから見せてくれない。だったら自分で作ってやろうと決意。機械を見たことは無かったが、大体こんな焼き方だろうと考え、1から熱風式焙煎機を製作した。ガスオーブンを改造してカゴをつけて豆を入れ、そのカゴを手で回しながら焼く。「すごい煙が出るわけ。焼け具合も懐中電灯の光で確認しながらバチバチ音がしたらザルに開けて扇風機で冷ましてね。初めて焼いた豆は達成感もあったからそりゃうまかったよ」と須藤さんは感慨深げに当時を思い出す。

 その後、焙煎する量が増えたため正規の焙煎機を導入したがここでも一苦労。乾いた豆や大きい豆など、豆の種類や資質によって焼き方が違う。その中でも追求したのがみな実ならではの味と焼き方。普通に焼いては他と同じになってしまうので、違いを生み出すため試行錯誤。まんべんなく膨らまして焼くのは難しく、豆が変わる度に悩み、コツをつかむまでにどれだけの豆を捨てたか。そしてようやく浅煎りで、苦味が少ないスッキリとしたみな実の味を確立させた。

 焙煎方法は門外不出で一子相伝。他とは全く違う焙煎方法で、焼き方を知っているのも須藤さんと店を継ぐ息子さんの2人だけ。その他は家族ですら方法を教えないし、焙煎室にも入れない。焙煎機もオリジナルの味を出しやすいよう改造してあるという。

 1999(平成11)年からこだわってるのがオーストラリアの豆。歴史は浅く仕入れ値も高いが、香りも味もブルーマウンテンに似ている良質な豆だ。

 

時間と空間を楽しませる

 

 カップをはじめ、空間づくり、接客等、美味しく飲んでもらうお手伝いには特に気を配る。その甲斐あって中には4時間以上くつろぐお客さんもいるが、それが本人の美味しく飲むスタイルなら何時間でもゆっくりしてほしい、と須藤さんは考えている。「多くの人が既成品の味に慣れてるから、味だけで掘り下げるのは難しい。カフェオレだろうがお店の雰囲気だろうが『おいしいね』って感じてもらえたらそれでよし。コーヒーには感性の部分が多いと思います」。

 疲れた時、いい音楽だなと感じた時、落ち着こうと思った時に、気分のバランスを保ちながら寄り添ってくれるのがコーヒーなのだ。

 41年続けていると、孫を連れて来る昔からのお客さんも。それを見て須藤さんが最近、思うことがある。「昔は今の15倍くらい喫茶店があったけど時代の流れで減っていった。だからチェーン店とは違うやり方で地元のコーヒーもあるんだよと伝えていきたい。町のお菓子屋さんが残るようにカフェという仕事を町の中に残したいね」

(記事内の情報は2014年取材当時のものです)

 

珈琲みな実三日町中央店

住所/八戸市三日町18北山ビル1F

電話/0178-47-4373