鶴田町にあるカフェ

 

 津軽富士見湖など自然に溢れ「津軽のへそ」とも呼ばれて親しまれる鶴田町。駅からほど近い街中に、周囲とは一風変わった素敵な建物がある。

 扉を開けるとピアノの軽快なジャズが流れてきた。音楽と一緒にフワッとコーヒーの香りが鼻先に漂ってくる。店内にはコーヒーの木や絵画などが飾られ、落ち着いた雰囲気だ。

 カウンターで作業をしているのは石村さんご夫婦。奥さんがオーナーとして接客などを担当し、ご主人はコーヒーの焙煎などを担当。店内に焙煎専用の部屋があり、新鮮なコーヒーを届けられるよう、随時焙煎を行うのだという。

 

納得する味を求めて一から自家焙煎を

 

 「珈琲いしむら」として現在の場所にお店を構えたのが1999年のこと。それ以前から喫茶店を運営しており、そこから数えると30年以上もコーヒーに携わっていることになる。この店を始めるまでは他所で焙煎されたものを扱っていたが、納得する味にならず、お店を新しくすると同時に自分で焙煎することを決意した。


 

自家焙煎するにあたり、まず悩んだのが焙煎機。直火式、熱風式、半熱風式といった種類に加えて様々なメーカー。たくさんの選択肢があり、その中から自分の納得出来る味が出せるものを探しあてるのに時間を要した。実際に使っているお店に足を運び、理想とする味を追い求めた。

 やっとのことで辿り付いたのが「井上製作所」という小さなメーカーの焙煎機だった。一度に1キログラムほどしか焼けない機械だが、コーヒーについて大学教授が書いた本にも使われている確かな技術のものだ。設置の際も井上さんが直接訪れ、焙煎についても丁寧に教えてくれた。

「どこかで修行したわけでもなくて、手探りで自分で勉強して築いてきました」と石村さん。しかし、石村さんの言葉が分かり易く頭に入ってくるのはひとつひとつ自分で積み上げてきたからでもあるのだろう。

 

 

飲む人にも「自分の味」を持って楽しんで欲しい

 

「魚を焼くのに火鉢で焼く人もいれば魚焼き機で焼く人もいる。コーヒーもそれと一緒で、美味しいかどうかってのは口にした人の感覚にもよるだろうし、焼き方が本当に上手いって人もいるだろうし。●●だから駄目っていうのは何もない。最終的に『これはすごい!』ってなったらそれは良いコーヒーなんでしょう」

 飲む側も自分の味を持って欲しい、と続ける石村さん。飲んだ時にその人にしっくりくるかどうかが大切。豆にしてもブラジルのように大量に生産されている国で出来た豆と、少量しか穫れないジャマイカ辺りのブルーマウンテンでは、希少価値で値段に差が出る。それを味などとひとまとめにして「これは値段が高いから美味しい」と判断するのではなく、安くとも自分に合ったコーヒーを探してもらいたい。

「だからうちでは一番美味しいコーヒーは出せないけれど『いしむらのコーヒーは一味違うな』とか『こんなコーヒーも良いね』と感じてもらえればそれだけで目標達成だよね」

 

 

いしむらのこだわり 

 

 抽出はドリップを使用。様々な道具があるが、ドリップ式が一番作り手によって味が左右され、その反面微妙なコントロールがきくのだという。

 いしむらのオリジナルブレンド「鶴の薫り(350円)」に使用する豆はモカ、コロンビア、2種類のブラジル。飲んだ時に4種類の味が助け合い、例えばその一杯にチョコレートのような味やココアの風味、柑橘系の酸味など、色々なものが楽しめるような味わいを目指している。

 コーヒーを楽しむためには他にも必要なことがある。一番のこだわりは「音」。空間を邪魔せず、聞きたいときには聞こえるボリュームを保っている。満足の音を出すまではまだ努力が必要だという。

「商売のことを考えたらもっと大きな町に行くのが普通なんでしょう、でも鶴田の町にいて、鶴田の人たちに楽しんでもらえる空間があったら良いと思っています。やっぱり鶴田が好きだから。お客さんには自分の店、自分の居間のように利用して頂きたいと考えております」

(記事内の情報は2014年取材当時のものです)

 

珈琲いしむら

住所/北津軽郡鶴田町生松127-2

電話/0173-22-2851