まだまだ修行中!独自な方法で自家焙煎

 

 コーヒーの好きな青森市民なら、1度は行ったことがある喫茶「マロン」。創業は1970(昭和45)年で新町にある老舗の喫茶店だ。

 二階の店内に入ると、柱時計やブリキのおもちゃなど、そこはアンティークに囲まれた異空間。店長の松井孝導さん(63)が若い頃から蒐集してきたものが飾られている。そこにあるもののほとんどは、松井さんの日記代わりのようなもので、ひとつひとつに思い出があるのだという。この隠れ家的雰囲気とコーヒーの美味しさに惹かれ、お客さんはひきもきらない。

 営業は午前7時からだが、最初にいれたコーヒーをまず神棚にあげることから一日が始まる。そのコーヒーは奥さんの登枝子さんの焙煎によるものだ。焙煎している場所は、古川にある姉妹店の自家焙煎「珈琲舎」の一角である。

 登枝子さんが焙煎するようになって約10年。それ以前までお義父さんが焼いていたのだが、突然亡くなり登枝子さんが代わりを務めるようになった。焙煎についてまったく知識がなかったため、コーヒー豆の卸問屋であるパーフェクトコーヒーへお願いし、同社の小田栄治さんに特別ということで教えてもらうことになり、時々足を運んで勉強したという。

「初めて店の焙煎機で焼いたとき、夢中でしたので、どのように焼いたか分かりませんが、自分の手で焼いたという喜びもあって、美味しかったことだけは覚えているんですよ」と笑いながら登枝子さんは話す。

 

 

 生豆は生鮮食品ということから、焙煎は一日置きに行い、できるだけ新鮮なコーヒーを提供するようにしている。直火焼きの焙煎機の前に立つときは豆に向かって「焼かせて頂きます。お願いします」、終わると「ありがとうございました」と心の中でつぶやくといい、ハゼる音を聞き豆と会話しながら焼いているのだという登枝子さん。焼き上がりは常に同じ状態でなければならない。そのため、毎回手で豆の状態を確認する。季節やその日の天候や温度、湿度などで豆自体の水分量が微妙に違うため、その手の感触で焼く時間を決める。とはいってもほんの数秒程度だ。

「毎回豆に試されているようでね。自分のイメージした豆の色になかなかならず、最高だと思えることもまだ一度もありません。まだまだ修業中ですのですからね」と明るく話す。

 

「マロン独自のコーヒーを味わってほしい」と焙煎しながら話す松井登枝子さん。
「マロン独自のコーヒーを味わってほしい」と焙煎しながら話す松井登枝子さん。

 

 

 ただ、長年の経験の中で生み出された自分独自の方法で焙煎しているという登枝子さんによれば、直火焼きのためか、最初はさっぱりして物足りなさがあるが、2、3日目頃から深みが増して、旨味がノドの奥に残るようなコクのある味になってくるという。そして、コロンビアをベースにしたブレンドコーヒーは、少々深めに焙煎し、酸味を抑えながら甘味とコクのある味、それがマロンのカラーでもあるのだ。

「若い頃、マロンで初めて飲んだコーヒーの味が忘れられなくてね。疲れていたためか、濃い深みのある味で、コーヒーってこんなに美味しいものだったのかと思ったんです。寒いときとか疲れたときにマロンのコーヒーを飲みたいなって思ってもらえるようなコーヒーでありたい」

 焙煎機のある仕事場は狭いけれど、登枝子さんの世界は無限に広がっている。夢は「オンリーワンになること」だという。

 (記事内の情報は2014年取材当時のものです)

 

喫茶マロン

住所/青森市安方2丁目67

TEL/ 0172-32-1188