古川店外観。
古川店外観。

 

 

「バッハグループ」田口社長との出会い

 

「コーヒーは『生鮮食品』のひとつです。焙煎してから時間がたつと酸化が進みますので、2週間くらいで使い切れる量をお持ちになるのがお勧めです」と教えてくれるのは、青森市篠田にある自家焙煎珈琲豆店「カフェ・デ・ジターヌ」の店主、今井徹さん(64)だ。青森県立中央病院前に最初の店を開いて今年で10年目。コーヒーの品質への謳い文句はその間、少しも揺らいでいない。

 同市ニコニコ通りの古川店を構える焙煎士で息子さんの今井健さん(35)は、店を開店してすぐに、コーヒーの産地である中米ホンジュラス、グァテマラを訪れた。大型ジープで山の中腹にあるコーヒー農園へ辿り着き、そこで目にした光景は、ピッカー(コーヒーの実を手摘み収穫する仕事に従事する人のこと)たちが家族総出で赤く熟れたコーヒーの実を一粒一粒手で摘んでいる姿だった。ガイドに食べてみるよう促され、口に放り込んだコーヒーチェリーは、質の良いコーヒーを飲んだ時に感じるほのかな酸味と甘さであったという。

 健さんが修行した東京のカフェ・バッハはコーヒー通の間で知らない人がいないほどの名店だ。オーナーの田口譲氏は自家焙煎の第一人者で、個人店経営者としては初めて日本スペシャルティーコーヒー協会の会長を務めあげた、日本のコーヒー業界の巨頭である。

 先述した中米視察の際に同行した師、田口氏から「誇りを持って高品質のコーヒー豆を生産している小さな農園主と我々のような小さな自家焙煎の店が手を携え、より美味しいコーヒーを作り出していこう」と諭され固く握手を交わし、自家焙煎店経営への覚悟が決まった。

 

篠田店。外観はイメージカラーのコバルトブルー。
篠田店。外観はイメージカラーのコバルトブルー。
欠点豆を取り除くハンドピック。この作業がコーヒーの味を決める基本となる。
欠点豆を取り除くハンドピック。この作業がコーヒーの味を決める基本となる。

 

安全で最高の品質のものを自信を持って

 

 カフェ・デ・ジターヌ篠田店(通称ジターヌ・コーヒーファクトリー)は青森市柳川、森林博物館の小路を入った住宅街にある。県病前にあった最初の店は2011年に現在の篠田の場所に移転した。店舗の外観は一貫してイメージカラーにしている濃いブルー。店内に入ると「ザーシャッシャッシャ」と硬質でリズミカルな音が聞こえてくる。覗き込んでみると作業台の上、黒色のトレイいっぱいに広げられているのはコーヒーの生豆らしい。トレイ前に座る熟練したスタッフがその中からすざまじい速さでパチパチと豆をはじいている。この店に初めて訪れた方はその様子を見てきっと驚かれることだろう。

 良質な豆であっても、虫食いやカビ・発酵・未成熟などの欠点豆が混じっていると、優れた焙煎技術と抽出を持ってしてでもコーヒーの味は格段に落ちるのだという。生豆の段階でそれらを一粒一粒はじいていく。この気の遠くなる作業が大切なのだそうだ。「安全で最高の品質のものを自信を持ってお客さんに提供したい、それだけなんです」

 ジターヌのコーヒーは、お湯をゆっくり注ぐとふわっと豆が盛り上がり、コーヒー特有の美味しそうな香りが広がる。豆の特徴を活かす焙煎をし、爽やかな酸味を持つ浅煎りから、コクのある苦味が感じられる深浦町煎りまで表情豊かだ。例えば、ひとつ苦みをとってみても様々な表情や特徴があり、適切な抽出をしてあげて初めてコーヒーの表情の輪郭をたどることができるという。コーヒーの世界は深いのだ。

 コーヒーの銘柄は常時20種類にも及び、酸味・苦み・甘味などそれぞれの好みにあった味のコーヒーをここで探せることだろう。並んだ豆を見ているといったいどんな味の違いがあるのか、興味心をくすぐられる。

 

「コーヒーは嗜好品なので、美味しくなければならないというのが私たちのこだわりなんです」とコーヒーをいれながら話す今井徹さん。(古川店にて)
「コーヒーは嗜好品なので、美味しくなければならないというのが私たちのこだわりなんです」とコーヒーをいれながら話す今井徹さん。(古川店にて)

 

コーヒースクール開校へ

 

 今年3月に創業9周年を迎えたこの店の名を新聞の紙面や市の広報で見かけたことのある方も多いかも知れない。東北新幹線青森開業の折には、青森のコーヒーを代表して東京駅構内でオリジナルブレンドを提供し話題になった。また、定期的に青森市の依頼で市民向けのコーヒー教室を各市民センターで開催し、応募者が多く抽選になるほどの好評を得ている。各地のイベントや郊外ショッピングセンターへも精力的に出店しているので、どこかで見かけている人もいるのでは。

「こうして日々やってきているうちに、もっとコーヒーをご家庭で美味しく飲んで欲しいというのと、青森のコーヒーシーンの底上げの手助けをしたいとの思いが募ってきました。その実現のためにはまず私たちが勉強し、公益性のある資格を取得しなければと思ったのです」そう語る今井さんたちは、コーヒーサービスマンのプロの証、コーヒーマイスターの資格を2008年に揃って取得。2012年からはその更に上位の資格「アドバンスド・コーヒーマイスター」に挑戦し、見事全国40数人の認定者の中に父子2人で合格を果たしている。

 試験は技術だけではなく、コーヒーの歴史や健康、産業などといった広く深い知識を問うもの。そうして習得してきた知識を活かし、多くの人に気軽にコーヒーに親しんでもらえるきっかけになればよいと、学び場としての「カフェ・デ・ジターヌ コーヒーラボラトリー」を青森駅前のアウガ2階に立ち上げた。ここでは日常のコーヒーの知識から、コーヒーマイスターを目指すためのより高度など知識を学ぶことができる。

「正しい知識を得たコーヒーファンが増えることで、青森市内の今ある喫茶店に貢献できたらいいし、昔のように街中に喫茶店が増えて欲しい。そのためにも幅広い年代で先入観無くコーヒーを楽しめる市民・県民が多い青森、という素地をつくるのが私たちのできることではないか。青森のコーヒー文化がもっともっと豊かになれば幸せに思う」

 今井さんは最新の技術と日々進化する理論と知識を学ぶ努力をし続ける。

(記事内の情報は2014年取材当時のものです)

 

Cafe des ジターヌ 篠田店

住所/青森市篠田3丁目3-

Cafe des ジターヌ 古川店

住所/青森市古川1丁目1-4